マイクロアグレッションをなくすアライシップ:チームの心理的安全性向上策
アライシップとは、多様な背景を持つ人々が安心して能力を発揮できるよう、積極的な支援者(アライ)として行動することを指します。特にリーダーの方々にとって、チーム内の誰もが心理的に安全な状態で働ける環境を構築することは、多様性を活かし、組織全体の生産性を高める上で不可欠です。本記事では、チームのパフォーマンスを阻害する「マイクロアグレッション」に焦点を当て、リーダーがアライとして実践できる具体的な行動指針とその背景にある重要性について解説します。
マイクロアグレッションとは何か
マイクロアグレッションとは、日常のコミュニケーションにおいて、特定のマイノリティ集団に対して向けられる、意図的であると否とにかかわらず、軽蔑的、侮辱的、あるいは否定的なメッセージを伝える、ささいな言動や振る舞いのことです。これらは悪意がない、あるいは冗談のつもりで発せられることも少なくありませんが、受け手にとっては心理的な負担や疎外感、孤立感につながり、長期的に見ればチーム全体の心理的安全性を損ねる要因となります。
例えば、「女性なのに理系に強いんですね」「〇〇人のくせに日本語がお上手ですね」といった発言は、発言者に悪意がなくとも、受け手にとっては自身のアイデンティティや能力に対する無意識の偏見やステレオタイプが働いていると感じさせます。これにより、チームメンバーが本来の能力を発揮できなくなったり、発言を躊躇したりするようになるリスクがあります。
リーダーがアライとして実践すべきマイクロアグレッションへの対処法
リーダーとして、マイクロアグレッションの存在を認識し、それに対して適切に対処することは、チームの心理的安全性を確保し、多様なメンバーが能力を最大限に発揮できる環境を育む上で極めて重要です。ここでは、具体的な3つのアライシップ行動をご紹介します。
1. マイクロアグレッションの兆候に「気づく」
自身の無意識のバイアスを自覚し、チームメンバーの発言や行動、雰囲気からマイクロアグレッションの兆候を敏感に察知する能力を養うことが第一歩です。
- 具体的な行動例:
- 自己省察の習慣化: 自身の言葉遣いや冗談が、特定の属性を持つメンバーに対して不快感を与えていないか、定期的に振り返ります。
- チームメンバーの声に耳を傾ける: 普段の会話や、1on1ミーティングの中で、メンバーが感じている違和感や不快感に注意を払います。直接的な訴えだけでなく、表情や態度、発言の減少といった非言語的なサインも見逃さないよう努めます。
- 多様な情報源からの学習: ダイバーシティ、インクルージョン(D&I)に関する書籍やセミナーを通じて、さまざまなマイクロアグレッションの事例や影響について学び、自身の認識を深めます。
2. 目撃したマイクロアグレッションに「介入する」
マイクロアグレッションの現場を目撃した際、傍観者にならず、アライとして積極的に介入することが求められます。介入は、被害者を守り、チーム全体の規範意識を高める上で非常に効果的です。
- 具体的な行動例:
- その場で穏やかに指摘する: 「今の発言は、〇〇さん(または特定のグループ)にとって不快に聞こえる可能性がありますね」といったように、事実に基づき、感情的にならずに指摘します。具体的な会話例としては、「〇〇さん、今の表現は少し誤解を招くかもしれません。意図しないかもしれませんが、〇〇さん(被害者)はどのように感じましたか?」といった問いかけも有効です。
- 後で個別フォローを行う: その場での介入が難しい場合や、よりデリケートな問題であると判断した場合は、後日、加害者と被害者それぞれに個別で話を聞きます。加害者には自身の発言の影響を理解させ、被害者にはサポートを表明します。
- チームの規範を再確認する: 全体会議などで、「私たちのチームでは、お互いを尊重し、どのような発言もポジティブな意図で行われるべきである」といったチームの行動規範を定期的に再確認し、意識付けを行います。
3. 根本的な原因を「予防する」ための環境を構築する
マイクロアグレッションの発生を未然に防ぎ、誰もが安心して発言・行動できる心理的に安全な環境を構築することが、リーダーの長期的なアライシップとして重要です。
- 具体的な行動例:
- 心理的安全性の高いチーム文化の醸成: 失敗を恐れずに意見を言える、助けを求めやすい雰囲気を作ります。例えば、定期的に「チェックイン」と呼ばれる短時間の共有を行い、メンバーが現在の気分や状況を安心して話せる場を設けるのも一つの方法です。
- オープンな対話の促進: チーム内でD&Iに関するテーマや、無意識のバイアスについて話し合う機会を設けます。これにより、メンバー間の相互理解を深め、異なる視点への尊重を育みます。
- D&Iに関する学習機会の提供: チーム全体でD&Iに関するワークショップに参加したり、関連コンテンツを共有したりして、継続的に学習できる環境を整備します。
アライシップ行動がもたらすポジティブな効果
マイクロアグレッションへのアライシップ行動は、一時的な問題解決に留まらず、チーム全体に多大なポジティブな効果をもたらします。
- 心理的安全性の向上: メンバーは安心して発言し、自身の能力を最大限に発揮できるようになります。
- エンゲージメントと生産性の向上: チームへの帰属意識が高まり、モチベーションと生産性が向上します。
- イノベーションの促進: 多様な視点や意見が尊重されることで、新しいアイデアが生まれやすくなります。
- ハラスメントの予防: 小さなマイクロアグレッションへの対応が、より深刻なハラスメントへの発展を防ぎます。
- リーダーへの信頼感: リーダーが積極的にアライとして行動することで、メンバーからの信頼が高まります。
まとめ
リーダーとしてアライシップを発揮し、マイクロアグレッションに「気づき」「介入し」「予防する」ことは、一見すると手間がかかるように見えるかもしれません。しかし、これは単なる個人的な善意に留まらず、チームの多様性を真に活かし、全員が能力を最大限に発揮できるような、強く、持続可能な組織を構築するための不可欠な投資です。
田中陽子さんのように、チームの多様性を高めたいと願うリーダーにとって、マイクロアグレッションへの具体的な対処法を学ぶことは、日々の業務におけるコミュニケーションやチーム運営をより良いものへと導く強力な一歩となるでしょう。今日からでも実践できる具体的な行動を一つずつ取り入れ、心理的に安全でインクルーシブなチーム文化を築き上げていきましょう。